『渡邊幸庵対話』より

娘が轆轤首

 駿河の山のふもとに、山伏が住んでいた。あいにく名前は覚えていない。
 山伏には娘が一人あって、轆轤首(ろくろくび)だった。
 一人娘なので、婿を迎えて家を継がそうとしたが、婿は一晩か二晩だけ娘に添ったばかりで、そのまま逃げて帰らなかった。
 これにより、轆轤首のことが露見したのである。

 その後、娘は流浪して江戸へ下り、十七歳で死んだと聞く。
 山伏宅を訪ねたとき、茶を運んできた姿を見たことがある。あのときは十四歳だったはずだ。
 器量よしで、身ごなしも上品な娘だった。首が抜けるのは見なかった。
あやしい古典文学 No.1293