『片仮名本・因果物語』上「愛執深女人、忽蛇躰ト成事 付夫婦蛇ノ事」より

死んでも一緒に

 江州の大塚村に、六左衛門という者がいた。
 六左衛門は、常々言っていた。
「われわれ夫婦は、たとえ死んでも、この屋敷で一緒にいるつもりだ。屋敷内に一基の墓を築き、死んだら二人ともそこへ入るのだ」
 そして、生きているうちに石塔を造らせ、夫婦の姿を刻んで、屋敷の一角に建てておいた。

 やがて六左衛門が死に、三年たたぬうちに女房も死んだ。
 その後は、石塔の上に夫婦の蝮が現れ、四六時中、あざなえる縄のごとく絡み合って蠢き、追えども去らなかった。
 あまりに気味が悪いので蝮を殺すことにしたが、村の者が殺せども殺せども、つがいの蝮があらたに現れて、尽きることがなかった。

 正保年間、本秀和尚が大塚村の妙厳寺住職となって、夫婦のために法要を営んだところ、蝮は出なくなった。
 かの石塔は、妙厳寺の墓場に埋められた。今は、塔の先端だけがわずかに地上に見えている。
あやしい古典文学 No.1297