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野田成方『裏見寒話』巻之三より |
水中の蜘蛛 |
甲斐中郡あたりの淵で、ある男が釣り糸を垂れていた。 大きな蜘蛛が水中から上がってきて、男の足元に寄ったかと思うと、また水に入った。 男はそれに気が付かず、たまたま煙管を取ろうとして足のあたりをさぐったときに、左足の親指に、蜘蛛の糸が七重八重に巻かれているのを見て驚いた。 そっと糸を外して、傍らの古い柳の切株に巻きつけておいたところ、突然、水面が噴き上がるように波立ち、淵の底から蜘蛛の糸が引かれて、切株を水底へ引き落とした。 男は仰天して、一目散に逃げ去った。 古老は言う。「水中の蜘蛛は人を喰う」と。 心得ておくべきことだ。 |
あやしい古典文学 No.1307 |
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