『大和怪異記』巻七「怨霊蛙となりてあだをかへす事」より

苦い尿

 ある侍が、若党を使いに出し、それが帰ってくるとすぐに、また別の使いに出そうとした。
 下女が「今度はどこそこへ行け」という主人の命令を伝えに行くと、若党は、
「遠方まで行き、今やっと戻ったばかりなのに、息つく暇もなく出されるのか。やれやれだ」
と呟いた。
 下女はすぐに奥へ入って、
「こんなことを言って、返事もいたしません」
と主人に告げ口した。
 主人は怒って、若党を手討ちにした。

 一年後のその日、かの下女は、主人の幼子の相手をして、庭を巡り歩いていた。
 そこへ蛙が飛び出してきたので、杖で叩いたところ、蛙は尿を、ぴゅっと下女の口にかけた。
 蛙の尿は、はなはだ苦かった。いくら舌を洗い、こそいでも、苦さは取れなかった。ひたすらこそぐうち、舌が破れ血が出て、みるみる腫れ上がり、三四日ほど煩ったあげく、ついに下女は死んでしまった。
 人々は、殺された若党が蛙に化けてきたのだろうと噂した。
あやしい古典文学 No.1310