池田正樹『難波噺』後篇巻之三より

蛸足漁

 越前や丹後あたりの海には、大きな蛸がいる。足の長さは三メートルに近く、足の太さが五十センチばかり、吸盤の直径が三センチほどである。
 漁師は、この蛸の足を取って売り物にする。
 長い竿に薄い鎌を結びつけたものを持ち、岩を伝って海に入ると、鎌をふるって蛸の足を一本切り取り、そのまま舟に上がる。足を取られた蛸は逃げていく。
 そうやって幾本もの蛸の足を取り、舟に積んで帰るのである。

 蛸どもはたびたび足を一本ずつ切られ、やがて足なしになるものもある。そういう蛸は頭をつかまえて、漁師たちが食べてしまう。
 しかし時には、大蛸に人が取られてしまうこともあるそうだ。
あやしい古典文学 No.1313