池田正樹『難波噺』前篇巻之四より

金の僧、銀の僧

 難波の地に、金錢村というところがある。
 昔、その近辺に一人の商人がいて、夜ごとその村を通った。通るたびに、三人の僧が行くのに出逢った。一人は金の衣、一人は銀の衣、もう一人は黒い衣をまとっていた。
 怪しく思って、三人の最後尾を歩く黒衣の僧を、手にした棒でしたたか打ち叩いた。
 僧はあえなく地面に倒れて、形が崩れた。よく見ると人ではなく、錆びついた若干の錢であった。
 他の二人の僧は、いずくともなく消え失せた。

 これすなわち、金錢が化けて出たものである。よって、そこは金錢村と名づけられた。
 その後は、金の僧も銀の僧も現れることがなかった。
 金銀はどこかに埋もれているのだろうが、場所を知る者は今に至ってもいない。
あやしい古典文学 No.1314