阿部正信『駿国雑志』巻之二十四上「馬骨治病馬」より

馬骨

 駿河国有渡郡丸子駅泉ガ谷に、熊谷次郎右衛門という百姓がいる。
 次郎右衛門の家の入口の右の柱の上、梁のほぞには、馬の頭蓋骨が掛てある。それは、源平の合戦のおり、梶原源太左衛門尉景季が騎乗した名馬「摺墨(するすみ)」の骨だとされる。

 骨が掛けられて六百余年、その間、家は一度の火災にもあわなかった。もし病馬があれば、この骨の下に繋ぐこと一両日にして、病が癒えるともいう。
 骨がこの家に伝わったいきさつについては、家伝が失われたために分からない。
あやしい古典文学 No.1321