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『大和怪異記』巻四「愛執によつて女のくびぬくる事」より |
恋の抜け首 |
越中国に、息子一人と娘一人をもつ裕福な家があった。娘のほうはなかなかの美形で、すでに十四歳になっていた。 その隣の家には、十五歳になる美少年がいた。娘はその男子に恋して、たびたび手紙を送った。しかし返事が来ることはないまま、娘の父母に知られ、手紙を出せなくなったばかりか、外出も禁じられた。 娘は悲しみと怨めしさで食を断ち、日ごとに弱って、もはや命も危ういまでになった。心配した乳母が、『なんとかして男子に逢わそう』とあれこれしたが叶わず、ただ嘆きの色を深めたばかりだった。 ある日、隣家の男子が縁に出て、庭を眺めていたときのこと。 『逢いたい、どうしても逢いたい』と心に思いつめたゆえか、かの娘の首が自然に抜けて外へ出て、隣家との境の塀の上まで行き、そっと男子を見つめた。 これこそ世に「轆轤首」とかいうものであろう。 そこへ娘の兄が来て、妹の首が塀の上にあり、細い糸のようなもので障子の内の胴体とつながっているのを見た。 兄は動転し、とっさに刀を抜いて糸を斬った。首はむなしく塀から転げ落ちた。 それからまもなく、隣家の男子もふと体調を崩し、四五日患ったのち死んでしまったということだ。 |
あやしい古典文学 No.1324 |
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