中川延良『楽郊紀聞』巻五より

人魂もたつく

 八月十二日か十三日の夜、三人連れで、厳原本川に架かる一ツ橋の東の川端を下っていくと、会所の少し下手に来たあたりで、昌元の浦の方から人魂(ひとだま)が飛んで来た。
 往来の人々が「あれあれ」と見るうちに、大橋の方に向けて宙を行ったが、川向うの荒木という紺屋の竹矢来の先端に、人魂の尻尾のようになった部分が引っかかってしまった。

 人魂は先へ先へと行こうとするけれども、尻尾が離れない。
 人々が東西の川端に集まって、口々に「あらあら」「おやまあ」と騒ぐ声に焦って、しゃにむに先へ行こうとするのだが、どんな絡まりかたをしたのか、もたつくばかりでいかにしても離れず、ついに人魂は半ばから千切れて、頭の方だけが飛んでいった。
 残りの半分は、なおも竹矢来から離れようともがき続け、やっと離れて、頭のあとを追った。そのとき頭は遠く飛び去って、もはや見えなくなっていた。
あやしい古典文学 No.1326