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古賀侗庵『今斉諧』巻之二「疫神」より |
疫神 |
かつて奥州耶麻郡で疫病が大流行し、死者が相次いだときのこと。 同郡山潟村の村民新助は、我が家の外で薪を割っていて、にわかに悪寒と激しい頭痛に襲われた。 疫病に罹ったにちがいないと思って、急いで家に入り、炉に火を焚き、背中を温めて汗を出そうとした。 そこへ突然、蒼い顔の醜悪な僧が入って来て、物も言わずに新助の目の前に立った。 『こいつ、きっと疫神だ』と直感して、近くにあった薪を掴んで投げつけたら、みごと眉間に命中し、僧は驚き慌てて出ていった。 とともに、新助の病状もすっかりよくなった。 後日、新助が村の門を出ると、門の左に一人の僧が立っていて、じろっと睨んできた。すぐに先日の疫神だと気づいた。 こみ上げる怒りにまかせて飛びかかり、力のかぎり殴り合った末、ついに僧を頭から地面に投げつけた。その瞬間、僧の姿はかき消えた。 新助はというと、右の肘を折られていた。それで元の仕事ができなくなり、行商人になった。 これは、奥州出身の知人土屋朗が語ったことである。 土屋の祖母は、文蛤を売りに来る新助をよく見かけたそうだ。疫神の話を信じない人には、右肘をめくって見せたらしい。 |
あやしい古典文学 No.1327 |
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