松崎堯臣『窓のすさみ』追加・巻之上より

快事

 徳川三代将軍家光が、臣下の者たちと雑談した折、
「最高の快事といえるのは、どんなことだろうか」
と尋ねた。
 それぞれ思うところをさまざまに申し上げる中、一人が、
「道の途中で大便をもよおして難儀し、やっと雪隠を見つけて便を出したときには、ほんとうにいい気持ちでした。あれほどの快事はありません」
と話した。
 なんと無礼なことを言う奴だとお咎めがあって、篭居を命じられた。

 その後、将軍は御狩りのとき、田んぼの真ん中で便意をもよおした。
 しかるべき雪隠を探させたが、そこらにはなくて、ようやく寺を見つけて入って用を足した。
 雪隠から出ると、かつて篭居させた臣下を呼び出し、
「そのほうの申したことを思い出した。あのときは、よくぞ率直に語ってくれた」
と、お褒めの言葉があった。
あやしい古典文学 No.1331