下津寿泉『怪妖故事談』巻之二「咽ニ両頭ノ魚アル事」より

噎病の虫

 唐の高宗の時代、絳州(こうしゅう)に、「噎病(いつびょう)」という咽喉の病気に罹った僧がいた。
 何年も患ったすえ、ついに死を目前にして、
「私が死んだら、咽喉を破って調べてくれ。この病気の原因を、どうか解明してくれ」
と、傍らの人に遺言した。
 僧の死後、遺言に従って咽喉を切り裂くと、魚の形をした奇妙な虫がいた。全身が鱗に覆われて、頭が二つあった。鉢に水をためて放すと、さかんに躍動してやまなかった。
 寺の中に染料の藍を作る人がいて、試しに藍を少し鉢の中に投じたところ、虫は慌てて逃げ回ったあげく、動けなくなった。しばらくすると、虫の形が溶けて、水と化した。
 以後、その人は藍を用いて噎病の患者を治療し、多数を治癒せしめた。
あやしい古典文学 No.1341