松崎堯臣『窓のすさみ』追加・巻之上より

餅が欲しい

 ある禅僧が、隠遁して江戸の芝あたりに住んでいた。
 やがて年老いて病に臥すと、甥にあたる侍が、たびたび様子を見に来た。
 病が重くなったので、甥が、
「よく看病したいので、わが屋敷に移りませんか」
と勧めたが、僧はきかなかった。

 ある日、僧は甥に、
「小さい餅を二百ばかり欲しい」
と頼んだ。そのとおりに与えると、
「思うことがあるから、お前はもう帰れ」
と追い返して、内から戸を閉ざした。
 翌朝、甥が行って戸を叩いたが、応えがなかったので、無理に押し開けて入った。
 僧は、かの餅に金貨一つずつを包み込み、四十八ばかり喰ったところで死んだらしく、食い残した餅の中に倒れて死んでいた。

 金を死後に残すことが口惜しくて、ことごとく餅に埋めて腹中に入れておこうと思ったのに違いない。
 こんな執心の深い者も、世にあるものなのだ。
あやしい古典文学 No.1348