古賀侗庵『今斉諧』巻之二「妖婦人」より

妖婦人

 雲州浪人の秋山陽助は、血気盛んな剣法の使い手で、みずからを天下無敵と誇り、江戸に来て伝馬町に住まいした。
 ある夜、陽助の宅内に妖気があらわれ、見ればその只中に一婦人の姿があった。抜刀して斬りつけると、座敷の中柱に刃が食い入ること数寸、女の姿はかき消えていた。
 これより毎夜、妖婦人が出現し、陽助はそのつど斬ったり刺したりした。柱も戸障子も刀傷だらけになった。
 妖怪の出没は、いっこうにやまなかった。陽助は不眠で疲労困憊し、気力を失い怖気づき、ついに出雲へ逃げ帰った。

 その後、別の人がその家に住んだところ、まったく平安で、何の異変も起こらなかった。
あやしい古典文学 No.1351