『聖城怪談録』上「秋野清右衛門河崎にて網をかけ怪に逢ふ事」より

網漁の怪

 秋野清右衛門という人が、夜分、河崎川へ魚獲りに行った。
 網をかけて、おもむろに引いたが、網は何かに引っかかったのか、いっこうに引き戻せなくなった。
 どうしたものかと思案しているところへ、その夜たまたま河崎村の実家へ帰っていた家来がやって来た。
 家来は委細を聞いて気の毒がり、
「私が川に入って、引っかかった網を外してきましょう」
と言って、そのまま川へ潜っていった。
 清右衛門は喜んで、家来が水から出てくるのを今か今かと待ったが、いつまでも出てこない。溺れて流されたにちがいないと思われた。
 『可哀そうなことを…』と悔やみつつ、家来の家に知らせに行くと、家来は生きて家にいた。
「私は宵方からずっと、どこへも出ていませんよ」
 そこで清右衛門は河崎川での出来事を語り、二人顔を見合わせて不思議がった。

 翌日、清右衛門はまた、かの網のところへ行った。
 引くとなんということなく取れたので、それを持って帰った。
あやしい古典文学 No.1359