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『南路志』巻三十六より |
笑う怪人 |
土佐国幡多郡の宿毛湾に、大嶋という島がある。その対岸の小浦の近くには、鹿崎という磯山がある。 あるとき、大嶋の漁師の父子が、小浦まで出かけた。 鹿崎に舟をつないでおいて用事を果たしに行き、夕暮れ時に戻ってみると、仙人とおぼしき人がそこに立っていた。生え放題に乱れた髪は棕櫚のごとくで、眼があやしげに光り、手足の爪ははなはだ長かった。 長い爪で頭を掻いてガリガリ音をさせながら、にっと笑いかけてくるので、漁師も言葉をかけたが、それに応えるでもなく、ただ笑うばかりだった。 しばらくすると、山へ帰るらしく、手前の川を一足で跨ぎ越して、向かいの山の急な峰坂を、平地を行くようになんなく登った。 途中で立ち止まって、木の実を採って食ってまた笑い、そのまま山中に姿を消したという。 |
あやしい古典文学 No.1373 |
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