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橘南谿『西遊記』巻之三「麝香鼠」より |
ジャコウネズミ |
薩摩の鹿児島城下に、麝香鼠(ジャコウネズミ)というものがいる。 台所や床下などに棲む、もぐらに似た形のものだ。糞が大変臭くて、少し麝香の匂いに似ている。 食物をむさぼり器物を破損すること、普通の鼠よりはなはだしい。膳・椀・飯櫃などにこの鼠がひとたび入ると、匂いがついて、何度洗っても取れない。人のいる場所に出てきたときには、匂いが鼻を打って堪えがたいほどだ。 鳴き声は大変大きく、雀の声に似ている。 清の外交使節徐葆光の琉球見聞記『中山伝信録』には、「琉球の鼠は雀の声をする」と書かれている。そもそも麝香鼠は琉球の船で渡ってきたもので、今では城下・町々・家々に甚だ多くはびこってしまったのだという。 この鼠は、長崎へも唐船で渡ってきて、町屋に多く棲息する。しかし、薩摩ほどは多くない。ほかの国内の地には、まったくいない。 一説に、オランダ人は、この鼠を原料にして煉り合わせ、麝香を作る技術を持っているそうだ。 たしかに、秘法があれば麝香にもなるほど強い匂いのある鼠だ。 |
あやしい古典文学 No.1375 |
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