『事々録』巻一より

馬飼の妻に鼠つく

 天保五年、小納戸方を務める戸張某の馬丁の妻が、鼠に取りつかれた。
 鼠が夜ごと、足の爪を喰った。やがて指を咬み、髪を齧った。これによって、妻はまったく眠ることができなかった。
 どうにも防ぎかねるので、櫃に入って寝たところ、櫃の底を食い破られ、数百の鼠に襲われて死に至った。
あやしい古典文学 No.1390