浅井了意『新語園』巻之八「黿虎ヲ齧ム 王氏紀聞」より

大河に棲むもの

 中国、唐の天宝七年、宣城郡の大河に棲む「黿(ゲン)」というものが、ふと水中から姿を現した。
 そこへ虎が来て、 黿を前脚で一撃した。
 黿はただちに反撃して噛みつき、虎は太腹に二か所、大きな傷を負った。
 虎は怒って、黿の首を抜いて殺した。虎もまた、二つの深手から腸が出て死んだ。

 黿は亀の仲間である。
 亀属の中の最大の種であり、南方の江湖に生じて、巨大なものは甲羅の周囲が五六メートルにも及ぶ。頭が大きく、首の色が黄色い。
 年を経たものは「能(タイ)」と呼ばれ、さらに変じては、妖怪のわざを為すとのことだ。
あやしい古典文学 No.1397