松浦静山『甲子夜話』巻之十八より

畜犯

 江戸の千住に、猿を飼って可愛がる者がいた。
 あるとき、その猿が子を産んだ。子は全体としては人の形で、手足の指が長いところなどが猿らしかった。人々は「人と猿が交わってできた子だ」と噂したが、飼い主はその子を養育しなかったという。
 その後、飼い主が婦女の傍に寄ったりすると、猿が走って来て、その婦女を掻きむしった。獣といえども、嫉妬の情を免れることはないのである。

 『太平広記』によれば、晋の太元年間、北方の丁零(チンリン)王の後宮において、妓女の部屋の前で猿を飼っていたところ、妓女たちがいっせいに懐妊した。
 それぞれが子を複数産んだが、すべて生れ出るやいなや跳ね踊ったので、王は『これは猿が姦淫したのだ』と知り、猿と子たちをことごとく殺害した。
 子を産んだ六人の妓女は、声をあげて泣いた。いったい何があったのかと王が問うと、
「黄色の練り絹の単衣に白紗の袷を着た少年が来たのです。とても可愛い子で、語るのも笑うのも、人そのものでした」
と言うのであった。
 これは猿が女を騙して犯したもので、わが領内の小近島で河童が婦女と交わるときも、みな少年に見えるという。豊後の河童も同様だと聞く。つまりは、猿も河童も美少年と見せて欺くのが常なのであろうか。

 また、平戸大垣という村に、痴漢がいる。
 髪はざんばらに伸ばし放題、汚れ破れた着物をまとって、汚らしいことは言いようがない。ただ淫欲は物凄く、薪刈りに山へ入る女を見れば、それに追い迫り、犯そうとする。だから婦女は、この者を見かけるだけで恐れて逃げ去る。
 この痴漢は、犬や牝牛とも交わろうとし、そのために村じゅう行かないところはない。かつて犬を孕ませたことがあったが、犬は出産できずに死んだ。
 人々は皆、「人の子だから大きすぎて、難産だったのだろう」と言い合った。
あやしい古典文学 No.1401