『好色百物語』巻五「老人好色ゆへ中風煩ふ事」より

好色老人

 江戸の南かち町に、七十余歳の老人がいた。
 この老人は大変な好色で、まだ二十歳過ぎの妾をはじめとして女中・婢女が十余人いるのを、取っ替え引っ替え毎夜毎夜性交しようとした。
 ところが、この老人の陰茎は木のようにごつごつして固く、女は痛いばかりで気持ちがよくない。それゆえ、「今日は気分がすぐれないから」とか「あいにく月のものが始まって…」などと互いに譲り合い、なんとか相手を免れようとした。

 延宝九年の九月ごろ、老人はまた新しい妾をかかえて、二階へ連れて行って性交に及んだ。
 休みなしに五回やって、さすがに疲れて終わろうとすると、女が下帯をとらえて離さない。それでさらに二回、懸命に頑張ってやった。
 老人は、
「息が止まりそうだ。もう勘弁してくれ。死んでしまう」
と手を合わせて頼んだが、女は、
「だれでもいつか一度は死ぬのだ。なんで命が惜しかろう。したいことをして死ぬなら本望ではないか」
と言って許さず、無理やりもう二回重ねたところ、もはや出るのは精液ではなく、紅の血が噴き出した。
 気絶して息も絶え絶えな老人を突きのけて、女は起き上がり、手櫛で髪を結いながら二階から下りて、その場の女たちに声をかけた。
「皆、今までよくぞ勤められたものだ。年寄りにあんな者がいるとは驚いた。私も物珍しさに相手してみたが、腹の上から下りもせずに九度までやらせたら、のびてしまった。水でも持って行くとよい」
 女は、老人の子や孫たちも居る前であざ笑い、さんざんに言い散らして帰っていった。
 人々が二階へ行ってみると、老人は息こそ少しあるものの、半身が萎えて、よれよれになっていた。
 その後、六七十日寝込んで、しだいに回復したものの元の身体に戻ることなく、結局は死んでしまった。

 女は何者だったのだろう。謎だ。
あやしい古典文学 No.1402