『妖怪門勝光傳』より

カワウソ

 カワウソは水辺に棲んで、たくみに水上を走るものだ。夜分に出て、眼を荒らげて歯を打ち鳴らし、さかんに騒ぐ。また、人家へ来て戸を叩く。いかにもせわしなく不穏で心を乱すような叩き方だが、大きな音ではなく、激しい音でもない。
 カワウソは喰いついて、血を吸うものだ。しかし、昼間に人を見ると、きわめて慌ただしい身動きでまたたくまに逃げる。
 カワウソを打とうと思って打つことは、不可能だ。槍でもって追い詰めても、突くと身をかわし、刃を横咥えにして歯でしごいたりする。上から石を落として叩き潰しても、血が流れるほどに身がひしげながら、石を取り去ると直ちに駆け出す。
 カワウソは、強く堅いものによっては死なないのだ。ただし、そこらのもので偶然に打ったときには、たちまち死んでしまう。
あやしい古典文学 No.1407