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平賀蕉斎『蕉斎筆記』巻之三より |
蕎麦の食いすぎ |
この夏のこと。京都の蕎麦屋に二人の客が来て、 「蕎麦を一斗、打ってくれ」 と注文した。 蕎麦屋の主人は不審に思った。 「一斗の蕎麦といえば大変な量で、とてもお二人で食べ尽せるものではありません」 しかし客は、 「いやいや、われらは赤螺(あかにし)を出汁にした蕎麦つゆを用意しているから、まったく大丈夫だ」 と平然としているので、首をかしげながらも一斗分の蕎麦を打って出した。 二人はそれを、何の苦もなく食い切った。 「これだけではまだ足りないなぁ。あと五升打ってくれ」 「いや、もし食いすぎでお客さんに異変があれば、蕎麦屋の名折れになりますから、これ以上は勘弁してください」 主人は断ったが、客は聞き入れない。やむなくまた打ちはじめたとき、客同士話し始めた。 「待つ間に、酒を少し飲もうよ」 「いや、酒はあとにしよう」 一人はどうしても飲みたくて、酒を一盃飲んだ。すると途端に腹がプツンと鳴って、臓腑が張り裂け、即死した。 みな大いに驚き、さっそく公儀に届け出た。 検使の役人も不思議に思い、ためしに蕎麦に赤螺出汁の蕎麦つゆをかけてみたところ、山盛り一杯の蕎麦がたちまち千切れ団子ほどに縮んだ。それにさらに酒をかけてみると、元どおりの大きさになった。 これで原因が解明されて、吟味はとどこおりなく済んだとのことだ。 |
あやしい古典文学 No.1413 |
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