藤岡屋由蔵『藤岡屋日記』第十三より

歯力鬼右衛門

 両国橋西広小路の見世物小屋に、紀州和歌山生まれの歯力鬼右衛門という者が出た。
 磁器の茶碗を噛み割り、径六尺の大盥に子供二人を入れたのを口にくわえて踊った。釣鐘の龍頭をくわえて持ち上げ、石臼の左右に四斗俵を付けたのをくわえたまま矢を射た。

 まことに想像を超えた芸当だ。重いものでは四五十貫あるのを、鬼右衛門は口にくわえて、自在に扱ってみせるのだ。
あやしい古典文学 No.1429