藤岡屋由蔵『藤岡屋日記』第五十八より

大女の見世物

 安政三年三月二十日より、深川八幡宮境内で、成田山新勝寺の出開帳があった。
 参詣者が群集して大賑わいとなり、六十日の予定を十日日延べして、六月一日まで行われた。近辺の遊郭が大繁盛したのをはじめ、深川一帯が大いに潤った。
 開帳の奉納物も数多く、多くの見世物が境内に軒を連ねた。

 見世物の一つに「大女」というのがあった。
 これは肥後国天草郡城崎村の百姓 大平の娘たちで、
  長女 おまつ、十六歳、身長二○六センチ、体重一四二.五キロ
  次女 おたけ、十一歳、身長一七三センチ、体重 九六.四キロ
  三女 おうめ、 八歳、身長一五五センチ、体重 七四.三キロ
の三人である。
 木戸銭は二四文。仕掛けでせり上がる舞台で、二頭の牛が麦こがし(はったい粉)の臼を挽き、大女三人が麦こがしを売る。姉妹の着物は、赤い絹に松・竹・梅の名前と模様を染めだしたものだ。
 面白くもなんともない見世物なのに、開帳ではこればかりが大当たりで、ほかは残らずこけた。まあ、時の運というものなんだろう。
あやしい古典文学 No.1430