広瀬旭荘『九桂草堂随筆』巻七より

泥と化すもの

 うなぎは、冬に長らく泥中にもぐって動かずにいると、泥そのものに化すことがある。

 梅雨の時分、江戸の木場の川口で網漁をしている者がいたので、「何が獲れたか」と問うたら、「五六寸のうなぎが数千…」と。放生しようと思って全部買って、我が家の庭の池に放した。
 その後、八月の末までは、水が黒く見えるほどに泳ぎ回っていた。霜が降りるころには泥にもぐって見えなくなり、池水はしだいに澄んだ。
 そこは門人の信友虎吉らと掘った池で、泥の深さが一尺四五寸ほどもあったろうか。翌春二月になっても泥から出てこないので、ことごとく浚えてみたところ、一尾もおらず、はじめて全部泥と化したことが分かった。

 淀川で三月ごろ水を汲むと、一桶に小うなぎが数十尾も入ることがある。水中を見るに、その多いこと真砂のようだ。
 「うなぎは水と潮の間に湧く」とも言われる。「うなぎは泥より出て泥に帰する」と言うのも、気化と形化の別があるのみで、生滅の理に異なるところはない。
あやしい古典文学 No.1454