古賀侗庵『今斉諧』巻之三「孫山之異」より

孫山の怪

 薩摩の内山田村に、木こりを生業とする孫右衛門という者がいた。
 ある日、孫右衛門は馬を牽いて山に入ったが、夕刻、馬だけが薪も負わずに家に帰ってきた。
 家人は心配して、一晩じゅう待った。しかし夜明けになっても、孫右衛門は帰らなかった。
 そこで大勢で山に入って行方を捜したところ、孫衛門が普段使っていた煙管(きせる)が地面に転がっているのを見つけた。そこから一里あまり先には、愛用の鉄斧が落ちていた。さらに数百歩行くと、衣服が樹上に掛けられてあった。

 孫右衛門は手ぶらで、裸で、どこへ行ってしまったのか。結局見つからず、のちにその山は「孫山」と呼ばれた。
あやしい古典文学 No.1461