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木室卯雲『奇異珍事録』三巻「亡念」より |
婿の亡念 |
延享の初めのこと。 湯島天神境内に、京屋という茶屋と向かい合って、加賀屋又兵衛という酒屋があった。又兵衛には男子が一人あったが、俳諧に凝って点者となり、超雪と名乗った。 又兵衛が死ぬと、「道楽者に店は継がせられない。超雪の姉に婿を取るのがよかろう」と親類が寄り合って相談し、本郷一丁目の那須屋という紙屋から、与左衛門という者が婿に来た。 しかし、夫婦に子が二人出来たところで、与左衛門がぽっくり死んでしまった。後家になった姉は、ほどなく番頭と密通した。 そこでまた親類が相談し、後家を黒門町の別宅に追いやった。店は、超雪が俳諧から足を洗って又兵衛を名乗り、相続した。 その加賀屋に、あるとき与左衛門が姿を現した。与左衛門は店内を通って奥へ入り、そのまま見えなくなった。以後は毎日、同じことが続いた。 加賀屋は次第に傾き、ついには潰れた。又兵衛は、また点者の超雪に戻った。 この与左衛門の幽霊を見た者は幾人もいる。林保雪、三村超南、市川庄之助の三名も、加賀屋で実際に見たと言っている。 |
あやしい古典文学 No.1466 |
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