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岡村良通『寓意草』下巻より |
知らないだけ |
魚は眠らず、鳴かないものだとされる。 しかし、奥州信夫郡では、夜間、ドジョウという魚が苗代の水で眠って浮かんでいるのを、松明を灯して箸で挟み取る。川にはカジカという魚がいて、夜となく昼となく鳴いている。コマという鳥が鳴くのに似たたいそう高い声だ。 下野国あたりの田んぼでも、ウナギ、ドジョウが眠って流れるのを獲るという。 かつて下総の加藤洲の宿に逗留していたときのこと。 春の半ばの日暮れに向かおうというころ、田面に蛙が鳴きわたり、それがいかにも繊細で趣のある声だった。 「このあたりの蛙の音は、とても風情があるなあ」 と述べたところ、 「蛙じゃない。タニシという小さな貝が鳴くのだ」 と言われた。近くに寄ってみると、たしかにタニシが、薄い蓋をひらめかせながら鳴いていた。コロコロコロコロ…と、息長く鳴くのだった。 また、幼いころ聞いた虫の音に似た声で、垣の上で延々と鳴くものがあった。都の人はケラという虫が鳴くとか、ミミズが鳴くとか言っていたが、里人に尋ねると、 「カタツムリが鳴く」 と答えた。 今まで、これらの虫が鳴くとは知らなかった。どれもこれも鳴かないのではない。鳴くことを人が知らないだけだ。 |
あやしい古典文学 No.1471 |
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