岡村良通『寓意草』上巻より

巨人国

 元禄のころ、ヨアン・バッティスという紅毛人が、捕らわれて江戸へ護送されてきた。
 ヨアンは、鉄の船に二十年分の食料を積んで、百人あまりで乗り組み、はるか外洋を乗り巡って日本まで来たのだった。
 江戸で新井白石の尋問を受けたとき、
「日本の東五百里ばかりのところに、ひとつの国がある。そこから東南に三万余里行ったら、たいそう大きな国の海岸に着いた。砂上に人の足跡があって、足裏の長さは四五尺ばかり。推測するに、身長は四五丈あまりだろう」
と語った。
 白石は、それを興味深く聞いた。そして、先例に照らして判断した。
「天正のころ、仙台の荒浜に、死んだ人が流れ着いたことがあった。身の丈四丈八尺あったという。ヨアンが言うところの国から来たのではないか」と。

 人にも、そんな巨大な種族があるのか。
 時珍は「日本に鼠あり。大いさ牛のごとし」と言っている。そんな鼠はいないわけだが…。
あやしい古典文学 No.1472