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古賀侗庵『今斉諧』巻之三「伝道寺山之怪」より |
伝道寺山の怪 |
加賀金沢の侍で加藤八十助と八島金蔵の二人は、ともに豪胆者で、深山に入って遊ぶのを好んだ。人の行かないところを探検しては、平然として戻ってきた。 伝道寺山は、山中に伝道寺があることからその名がついたもので、そこへ行く者の多くが怪異に遭遇する。 八十助と金蔵は、ある夜、伝道寺前を流れる谷川まで行って、魚を獲るべく漁網を投じた。 ふと見ると、闇の中、形の定かでない何ものかの影が十歩ばかり向こうに浮かんで、 「やい、八十助…、金蔵…」 突然二人の名を呼んで消え去った。 そいつはしばらくしてまた近寄ってきたので、二人は息を殺して待ちかまえた。 「八十助っ、金蔵っ」 すぐそばで呼び声がしたとき、ぱっと襲いかかって生け捕りにしようとしたが、残念ながら逃げられた。 その後、数十歩離れたところから、また名を呼んだ。 「おーい、八十助〜ぇ…、金蔵〜ぉ…」 いったい何ものだったのか、分からずじまいで終わった。 |
あやしい古典文学 No.1473 |
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