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唐来参和『模文画今怪談』より |
赤い小袖の女 |
三倉某という人が、下野国の那須野の温泉で湯治していたときのこと。 相宿の男の部屋へ、夜ごと人の寝静まったころに、赤い小袖に紫の帯の二十歳ばかりの女が忍んできて、男に抱かれた。 三倉氏はその女を垣間見て、『山里には珍しい美形だ。どうも怪しい』と思い、帰っていくときに跡をつけたが、女は山深く入って、ついに姿を見失った。 宿に帰って相手の男に、 「あの女とは、どういう仲なんだ」 と尋ねるに、 「いや、毎夜交接はするが、どこから来るのかも知らない」 と言うので、見てきたことをありのままに話し、 「今夜来たら、相応の覚悟で…」 と忠告した。 その夜、何も知らない女は、いつもどおり男の寝間に入ろうとした。そこを抜き打ちに斬ると、あっ! と叫んで消え失せた。何かは知らず、化生のものには違いなかった。 人々が集まって松明の火で見るに、おびただしい血が流れていた。血の跡をたどってゆき、山深く入って、一つの洞穴の中で死んでいるのを見つけた。 死骸になっても、姿は尋常の女に変わりなかった。しかし、赤い小袖と見えたのは木の葉だった。 それが「山姥」というものだと、後に三倉氏は、ある老僧に教わった。 |
あやしい古典文学 No.1478 |
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