『岩邑怪談録追加』「宇都宮氏、小銃を放つ事」より

発砲

 宇都宮郡右衛門は、ある夜、猟のため、銃を携えて中ノ谷中尾を越えていった。
 峠道の半ばで、小僧が一人現れ出て、郡右衛門に向かって、
「その銃を撃ってみせろよ」
とだしぬけに言った。
「的なしに撃つことはしない」
と応えると、小僧は向こうの松の幹を指さした。
「的はあれだ」

 郡右衛門は、『こいつは愛宕神社の配下の木ッ葉天狗で、わしをたぶらかそうとするのだろう』と思い、度肝を抜いてやろうと、無言で火縄銃に弾を込めて、いきなり発砲した。
「おぉ、なかなかの腕前だな。ところで、いま撃った弾はここにある」
 小僧は弾丸を手渡して、ぱっと姿を消してしまった。
あやしい古典文学 No.1483