『ばけもの絵巻』より

踊る赤子

 大和国の西ノ京に、いつからあるとも知れない古家があった。ばけもの屋敷だというので、ひさしく住む人もなかった。

 ある剣術者が、妖怪の実否を明らかにしようと、一晩泊まりこんだところ、真夜中過ぎ、障子の向こうから、何ものかが踊る音が聞こえてきた。
 「妖物、出たな」と腰の物に手をかけ、隙間から様子を窺うと、今生まれたばかりのような赤子が、無心に踊っているのだった。
 はじめは二人、三人だったのが追々増して、気がつけば何百人もの赤子が踊っていた。部屋から溢れた赤子は、いつの間にか膝のあたりまで寄せてきた。
 切り払おうと刀を抜きかけたが、腕がすくんで抜くことができない。無念! と思いながら、なすすべなく身をもがくばかりだった。
 やがて夜がしらじらと明けかかり、赤子たちは散り失せた。
あやしい古典文学 No.1485