加藤曳尾庵『我衣』巻四より

人さらい船

 文化五年の八月のこと、長崎沖に大船が一艘現れた。
 紅毛人の船であろうと思い、合図を出すと、大船の方でも合図を返したので、迎えの船役人そのほかが小舟一、二艘で近寄って様子を見ると、紅毛人の船とはだいぶ様子が違っていた。
 驚いて、問いただそうと漕ぎ寄せたところ、大船から釣り縄のようなものが投じられ、役人が五人も釣り上げられた。
 残った人々は、大慌てで舟を漕いでその場を逃がれた。
 事件の急報を受けて、長崎奉行所は大騒動。そうするうちに大船は、行方知れずになってしまった。

 これにより長崎から毎日早馬が来ると、もっぱらの噂だ。
あやしい古典文学 No.1486