岡村良通『寓意草』下巻より

畳の下

 狐・狸ばかりが化けるのではない。

 諏訪若狭守の屋敷内では、白い鞠のようなものが転げあるくことがあった。はじめは人々も怪しんだが、だんだん慣れて平気になった。
 また、畳が勝手に持ち上がることがあった。これも大したことではないと思って、怪しまなかった。
 ある日、侍女が娘の部屋へ行くと、畳がふっと持ち上がったので、「またか」と飛び乗ったところ、キッ! と鳴き声がした。
 三日ほどたって、なんとなく臭かったから畳を上げてみたら、大きな鼬が、頭を踏み砕かれて死んでいた。体長が一メートル近くあったという。
 それ以後、怪異はふっつりやんだ。

 中国では、犬や猿が化けることが書かれている。わが国では、そういう話はあまり聞かないようだ。
あやしい古典文学 No.1501