青葱堂冬圃『真佐喜のかつら』六より

蛙合戦・雀合戦

 甲斐国の塚原村に、化恩院という寺がある。その寺の池で毎年、春と秋の彼岸の前後三四日のうちに、「蛙合戦」がある。
 池に棲む蛙は言うまでもなく、近村からも続々と数限りない蛙が参戦する。
 池の周囲に集結し、水上でも陸上でも互いに噛み合うこと、あたかも遺恨のある敵味方が戦うかのようだ。噛まれて血を流すものや、手足を損じて蠢くものがあると、いまだ無傷の蛙がやって来て口にくわえ、どこかへ運んでゆく。
 一日か二日そのように戦って、やがて散り散りになり、一匹もいなくなるそうだ。

 筆者が幼年のころ、江戸の湯島金性院と榊原屋敷の間に、雀が多く集まって、戦争のごとく喰いあった。羽や足を損じたものは、他の雀が来てくわえ去った。
 雀群の中に、鶸(ひわ)、百舌鳥(もず)、鵯(ひよどり)なども混じっているように見えた。
 これは秋のことだったと記憶している。
あやしい古典文学 No.1507