竹原春泉『絵本百物語』巻一「野宿火」より

野宿火

 田舎道はもちろんのこと、街道でも山中でも、どこでもある。
 誰が焚き捨てたわけでもない火が、人の気配のない場所で、ホトホト燃え上がっては消え、消えてはまた燃える。
 あたかも地面に沁みていたかのような炎が、燃えたり消えたりするのを、「野宿火」という。

 乞食が早朝に起きて去った跡、遊山の人々が帰った跡、野宿火はそんなところでよく燃え出る。
 雨の後などに燃え立つ炎のゆらめきを、木々の合間から覗き見ると、あたかも人が集まってものなど言い合っているかのようだ。
 もの寂しくて気味悪く、ぞっとさせるのが野宿火というものだ。
あやしい古典文学 No.1509