渡邊政香『今昔参河奇談』「枯木夜火」より

枯木杜の火

 枯木杜(かれきのもり)は、寺津村の東に位置する。巨海(こみ)村に属し、八幡の小祠がある。
 風が静かで雨の降りそうな夜、杜から火が出る。夜火は寺津村の白山杉や杜の高木にのぼり、三つ四つ五つに分かれて地に降り、また一つになる。また、八面山まで飛んで行く時もある。
 どういうわけで出るのか、知る人はいない。

 古老は「名剣が地中にあって、その気があらわれるのだ」と説くけれども、剣の気ならその場所に火が立つのみで、他所へ往来するはずがない。
 思うに、鳥の火ではないか。山鳥が光を放つことは知られているが、この地に山鳥は棲まないから、青鷺・雉の類であろう。
あやしい古典文学 No.1513