『大和怪異記』巻一「雲中ににはとりたたかふ怪異の事」より

闘う鶏

 天安二年三月の某夜、左兵衛府の武官の大宅年麻呂という者が、北野の稲荷神社で異様な光景を見た。

 月光に浮かぶ雲の上で、二羽の真っ赤な鶏が激しく闘っていた。撃ちあうたびに、赤い羽毛がぱっぱっと散り落ちた。
 地から隔たった空中でのことにもかかわらず、眼前のことのように見たという。
          
あやしい古典文学 No.1515