渡邊政香『今昔参河奇談』「産夫馬塚」より

叫喚

 『牛久保密談記』に言う。

 永禄六年三月六日、松平元康が今川氏の拠点牛久保城を攻めた牛久保合戦において、城方の重臣 稲垣平左衛門の勇士十六人が討ち死にした。
 十六人は一蓮托生ということで、一つの塚に埋め込まれた。
 その後、塚の霊魂が、月の暗い雨夜などに、産夫馬(うぶめ)のごとく「ギャーッ」と叫喚するようになった。
 里人はそこを「産夫馬塚」と呼んでいる。
あやしい古典文学 No.1522