藤岡屋由蔵『藤岡屋日記』第十二より

赤坂井戸の怪

 赤坂に、秋田源次郎という五百石取りの旗本の屋敷があった。敷地内には、昔からの言い伝えによって水を汲まない井戸があった。
 源次郎は常々、その井戸の水を使えないものかと思っていて、じっさいに水を汲んでみたら、いたって良い水だった。そこで、今後は言い伝えを無視し、日常用の水に使うことに決めた。

 まずは家来たちとともに、井戸さらえに取りかかった。
 もともと低地なので、さして深くもない井戸で、ほどなく水を汲み出し終わったころ、底からニ三歳の子供くらいの大蛙が一匹、ほかに猫ほどの蛙が三匹出てきた。
「こんなものが棲んでいるから、これまで使わなかったのだな。さて、こいつらをどうしてくれようか」
 源次郎は用人と相談し、殺してしまうのが何よりよいと、四匹とも叩き殺してしまった。

 その夜、用人は自ら舌を噛み切って即死した。
 源次郎は、翌朝、起きてこなかった。夜着をかぶって臥したままなので、めくってみると、枕もとに置いた脇差で喉笛を突き通して、うつむきに死んでいた。
あやしい古典文学 No.1524