中村満重『続向燈吐話』巻之八「赤坂火消屋敷怪異の事」より

生いわし、生いわし

 赤坂火消屋敷の内に、雨風激しい夜には必ず出て、
「生いわし、生いわし」
と呼ぶものがある。
 初めは奇怪なことに思い、婦人や幼童は恐れおののいたが、今は聞きなれて、『いつものやつが出た』と思うばかりで、ほとんど気にかけなくなった。

 かつて屋敷内で殺害されたいわし売りの執念が残って、このように呼ぶのだそうだ。
あやしい古典文学 No.1535