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菅江真澄『筆のまにまに』より |
あやめ塚 |
越後国三条の郷の近くに、「あやめ塚」というところがある。 なにゆえその名があるかと問うに、土地の者の話によれば、 「むかし、菖蒲前(あやめのまえ)と猪野早太が都から落ちてきて、陋屋を住まいとしてこの地で暮らし、老いて二人とも亡くなった」 とのことだった。 菖蒲前は源頼政の愛した女性であり、頼政が平氏との戦いに敗れて自刃した後、頼政の郎党 猪野早太が菖蒲前を護って都から逃れたと伝えられる。 早太の塚もあったというが、もはや定かでない。 今、このあたりの少女は、手鞠歌に、 「向こうの山で光るはなんだ。露かお星か蛍の虫か、今来たお千代まが簪(かんざし)か」 と唄う。 菖蒲前は、お千代という近所の娘をことのほか可愛がって、毎朝髪を結い、紅おしろいで化粧してやった。また、金の簪を挿してやったという。 |
あやしい古典文学 No.1539 |
座敷浪人の壺蔵 | あやしい古典の壺 |