『本朝故事因縁集』巻之二「雲州松江皿屋敷」より

雲州皿屋敷

 正保年間のこと。
 雲州松江の侍の屋敷で、秘蔵の十枚の皿のうち一枚を下女が取り落として割ってしまった。主人の侍は怒って、下女を古井戸に突き落として殺した。
 その後、下女の亡魂が夜な夜な井戸の傍らにあらわれ、皿を数えた。
 「一枚、二枚、三枚、…」と「九枚」まで数えて、「わぁっ」と哭き叫ぶことがやまなかった。

 あるとき、屋敷に一人の知恵者の僧が来た。
 僧は、亡魂が皿を数えて「九枚」と言ったとき、すかさず横から「十枚っ!」と言い足した。
 亡魂の形は消えて、再びあらわれなかった。
あやしい古典文学 No.1549