加藤曳尾庵『我衣』巻五より

盲愛

 牛込あたりの寺で。
 近所の軽輩の御家人の子が、疱瘡にかかって死んだ。母親は哀惜の情に堪えず、いささか乱心の様子だったが、その夜、亡骸を埋めた墓を掘り返し、死児を抱いて号泣したという。

 これも同じ寺で。
 さる旗本に、愚かな次男があった。その男が、寺の門前の豆腐屋の娘に恋慕して、娘が死ぬと墓を掘り返し、湯灌場(ゆかんば)で犯したという。

 薬研堀あたりの旗本屋敷で。
 旗本の娘は、用人何某と密通でもしていたらしく、用人が妻を迎えて三日目に、用人に飛びかかって鼻を噛み切った。
 娘ではなく、旗本の奥方だという説もある。
あやしい古典文学 No.1564