津村淙庵『譚海』巻之十より

鼬が多い

 越後には、鼬(いたち)がことのほか多い。

 野山へ行ってみるがよい。
 鼬の一家が穴を掘って棲んでおり、親鼬は大勢の子を穴から出して相撲を取らせ、自分は穴から顔を出して見ている。勝負がつくたびに、親は負けた子のところへ行って頭をべしっと叩き、また穴に戻るのだ。

 また、人家に「鼬の六人づき」ということがある。
 越後には餅つき臼を六人でつく習わしがあるが、鼬が集まって騒ぐ音が、六人づきの臼の音に似ているのだ。唄をうたうように聞こえるので行ってみると、音は止んでどこから聞こえたかも分からない。
 この「鼬の六人づき」は、その家の興廃に極めて関係がある予兆だ。家が栄えようとするときにも聞こえ、家が衰えようとするときにも聞こえてくる。
あやしい古典文学 No.1573