瑞竜軒恕翁『虚実雑談集』巻之一「あやしき獣の事 附白蝶あゆみし事」より

白蝶怪

 奥州二本松の侍のもとに、夜ごと白い蝶が来た。その蝶が触れると、侍はたちまち体の節々が痛み、苦しむのだった。
 ある夜、広間のほうから、大岩が落ちたかのような音がした。驚いてそちらを見ると、大の男ほどの背丈の白蝶が立って、人の歩くようにのしのしと寝所に入ってきた。
「来るか、化け物!」と太刀をとり、斬りつけると、ただひらひらと金銀の箔などが飛ぶように散って、まったく姿が失せた。
 以後、白蝶は来なくなった。侍の病も止んだ。

 のちに侍が江戸に出て語った話である。
あやしい古典文学 No.1575