瑞竜軒恕翁『虚実雑談集』巻之一「頻伽鳥に似たる鳥の事」より

頻伽鳥

 昔、備前の国守が語った。

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 私が領国にいたときのことだ。
 城内で大変な物音がするので怪しく思い、台所のほうではないかと調べさせたが、何も異状はく、台所の者たちは「ほかから凄い音がしてきましたよ」と言った。
 どういうことだろうと思っているとき、山野で狩する者が報告した。
「今日は一日じゅう狩をして一羽の鳥も獲れず、空しく野中を帰る途次、形は大きな鳥で、頭は人のようなものが、百も二百も群れ飛ぶのを見ました。鉄砲で撃つと当たって地に落ち、見れば、翼は左右に伸ばして三間あまりもありました。鳥にはちがいないようですが、一尺あまりもある頭部は、黒髪の美しい女の顔でした。あれはもしや、頻伽鳥(びんがちょう)などというものではないかと思われます」と。

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 筆者がこの話を聞いたのは、元禄年間のことだったように覚えている。
 「頻伽鳥」とは、上半身は美女で下半身は鳥という、極楽浄土にいる鳥のことだが、さて、この話の鳥はどうなのか、訝しい。
あやしい古典文学 No.1576