森島中良『万国新話』巻之二「人膽酒」より

人肝酒

 『東西洋考』にいう。
 むかし占城(チャンパン)の国王は、人の肝を取り、酒に入れて飲んだ。また、その酒を身に浴び、全身肝まみれとなった。

 筆者が思うに、その肝は真臘(チャンラ)国から送られたものである。
 『真臘風土記』によれば、毎年八月ごろ、占城王は幾千幾万に及ぶ人の肝を求めた。その要求に応えるため、真臘王は、夜ごと家来を城外に出した。
 家来は、往来の人があると、縄で作った兜の覆いを頭に被せて捕らえ、ただちに小さい刀でもって右の脇下を裂いて肝を取った。
 肝の数が足りると、それを占城王に送ったのである。
あやしい古典文学 No.1584